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宮崎地方裁判所 平成4年(ワ)578号 判決 1995年11月27日

宮崎県<以下省略>

平成四年(ワ)第五七八号事件原告

X1

(以下「原告X1」という。)

宮崎市<以下省略>

平成四年(ワ)第五七八号事件原告

X2

(以下「原告X2」という。)

宮崎県<以下省略>

平成四年(ワ)第六五一号事件原告

X3

(以下「原告X3」という。)

原告ら訴訟代理人弁護士

後藤好成

衛藤彰

真早流踏雄

中島多津雄

西田隆二

原告訴訟代理人弁護士

前田裕司

原告訴訟復代理人弁護士

松田公利

原告訴訟復代理人弁護士

成合一弘

東京都千代田区<以下省略>

平成四年(ワ)第四七八号事件、平成六年(ワ)第六五一号事件被告

大和証券株式会社

(以下「被告」という。)

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

松鵜潔

主文

一  被告は原告X1に対し、三四二万四〇〇八円及びこれに対する平成四年九月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告X2に対し、一一〇万一二二七円及びこれに対する平成四年九月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告X3に対し、八七万二〇六九円及びこれに対する平成六年一〇月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、

1  原告X1と被告との間においては、原告X1に生じた費用の五分の四を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

2  原告X2及び原告X3と被告との間においては、原告X2及び原告X3に生じた費用の一〇分の一を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

六  この判決は、第一ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

1  原告ら

(一)  適合性の原則違反

(1)  証券取引における自己責任の原則は、その大前提として、顧客が当該取引を自己の責任において行いうるだけの環境を必要とする。取引手法の規制や市場及び顧客保護規定の整備等の外的環境のほか、能力、経験、資力等の顧客自身の条件が問題とされなければならず、当該取引に適合する条件を具備しない顧客を取引に参入させることは、当該取引への自己責任の原則の適用を不可能なものとする。したがって、巨大な能力と力を有し、顧客に対して忠実義務、善管注意義務を負う証券会社は、その勧誘に当たっては、このような顧客の適合性を慎重にチェックした上で、顧客に適合した取引への勧誘のみをなすべき義務を負うものである。この点については、「投資者本位の営業姿勢の徹底について」(昭和四九年一二月二日蔵証第二二一一号大蔵省証券局長通達)も、投資勧誘に際しては、投資者の意向、投資経験及び資力に最も適合した投資が行われるよう十分配慮すべきこと、取引開始基準を作成してこの基準に合致する投資者に限り取引を行うべきことを定めており、社団法人日本証券業協会(以下「協会」という。)の「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規制」(公正慣習規則第九号)は、顧客カードの整備の義務付けによって、資産状況、投資経験等適合性判断の前提条件の調査を証券会社に義務付けている。

(2)  新株引受権(以下「ワラント」ともいう。)、その中でも外国で発行された外貨建てのものは、その商品構造が複雑で危険性が高く、周知性もない金融商品であることから、そもそも自ら独自に情報を収集する能力、リスクを負担できる資金力及び投資経験を有するプロの投資家が自発的に取引を行う場合にのみ適合性を有するものであって、通常の職業の傍ら、いわゆる財テク(財務テクノロジー)として投資を行っている一般投資家には適合しないというべきである。

(3)  被告作成の顧客管理規程(平成元年九月三〇日付けのもの)によれば、外国新株引受権証券への投資勧誘を行う顧客の基準は、①当該顧客に証券投資に関する相当の知識と経験があること、②当該顧客からの預り資産が一〇〇〇万円以上あること、又は、顧客カード等により当該顧客の金融資産額が一〇〇〇万円以上であること、以上の二要件に該当する場合とされている。

(4)  原告X1について

原告X1の夫である□□(以下「□□」という。)は、本件三菱電機ワラントを購入した当時九〇歳という高齢で、右ワラントを購入するに際し、□□の代理人として行動した原告X1も五六歳であって、いずれも駐車場料金、家賃収入、年金等で生活していた者であること、□□は、以前被告以外の証券会社において、若干の転換社債を購入した経験があるが、株式取引に関しては被告を通じて購入したソニー株式(時価約九〇万円)が初めてであったことからすると、□□及び原告X1は、ワラントについて、その商品内容及び危険性を理解し、自己の判断で取引をし得る能力を有していたとは到底考えられない。したがって、□□はもちろん、その代理人として行動していた原告X1についても、被告が設けた右取引開始基準に合致しないことは明らかであって、被告がの代理人としての原告X1に対して、ワラントを勧めたことは適合性の原則に反する。

(5)  原告X2について

原告X2は、証券取引の経験も浅く、預金をするようなつもりで証券取引を開始し、継続してきた一般の投資家といえる者である。したがって、かつて我が国の証券取引業界に存在しなかった、極めて複雑かつ特異であり、しかも危険な商品であるワラントを、原告X2に勧めることが適合性の原則に違反することは明らかである。

(6)  原告X3について

原告X3は、被告において原告X3名義、妻である□□(以下「□□」という。)名義及び原告X3が住職の地位にある宗教法人(以下「**」という。)等の口座を開設し、を窓口として被告を通じ証券取引を行っていたところ、□□は、□□の口座は公的資金であり、原告X3個人名義の口座についても、株は知識がなければ手を出すものではないと考えていたことから、被告を通じて購入する商品については、値上がり益を追求するものではなく、安全確実な商品だけを購入するという方針で取引を行っていた。□□は、被告の担当者が代わる度に、担当者に対して、右のような取引方針を告げており、昭和六一年七月から担当者となった被告従業員のB(以下「B」という。)に対しても右方針について伝えていた。したがって、原告X3及び□□は、証券取引について経験が豊富であるとはいえない。よって、原告X3及び□□に対して極めて複雑かつ特異な商品であるワラントを勧めることは適合性の原則に反する。

(二)  説明確認義務違反

(1)  証券会社は、証券取引に関して顧客に比し隔絶した知識と能力を有しており、そのため、一般投資家は全面的に証券会社を信頼して取引を行っていることに鑑みると、証券会社は、顧客と取引を行うに当たり、事前に、当該商品の内容を具体的、かつ、十分に説明し、顧客がこれを理解したことを確認する義務を負うものである。とりわけ、証券会社が自ら勧誘を行って取引を進める場合、これらの説明、確認義務は極めて高度な内容を有するものである。ワラント取引は、ワラントというものが周知性のない商品であり、その銘柄において明示される発行企業が上場企業であることから、上場株式等の他の比較的安全な商品と誤解されやすい性質を有し、顧客、とりわけ一般投資家がその取引システムやリスクを十分理解することは困難である。したがって、証券会社が、ワラントを勧誘する場合には、他の商品に比して一層慎重かつ具体的な説明、確認義務を負うものというべきである。すなわち、①ワラント債の意味及びそれからワラント部分が分離されて独立の取引対象として流通させられることの意味及び内容、②ワラントは権利行使期限があり、同行使期限内に処分もしくは行使しないと無価値になるものであること、③行使期限内に、あらかじめ定められた行使価額を株価が上回ることがない限りワラントの価値は生ぜず、行使期間中であっても、行使期限内に株価が行使価額を上回る可能性がなくなれば、ワラントの価値もほとんどなくなる危険があること、について説明し、顧客が十分理解しているかどうかを確認すべきである。

(2)  また、公正慣習規則第九号に「協会員は、顧客と新株引受権証券取引又は先物取引等に係る契約を締結しようとするときは、あらかじめ、当該顧客に対し、本協会又は当該先物取引等を執行する証券取引所が作成する説明書を交付し、当該取引の概要及び当該取引に伴う危険に関する事項について十分説明するとともに、取引開始に当たっては、顧客の判断と責任において当該取引を行う旨の確認を得るため、当該顧客から新株引受権証券取引又は先物取引等に関する確認書を徴求するものとする。」と規定されているように、証券会社が顧客に対して説明書を交付するにあたっては、事前に分かりやすい言葉で、具体的、かつ、十分に説明がされねばならない。被告は顧客に対し、ワラントの内容を十分に理解させた上で確認書を徴求すべきであって、顧客の理解が十分でないままに確認書が徴求されても、説明確認義務を尽くしたとはいえない。

(3)  原告X1について

被告宮崎支店の営業課長代理であったC(以下「C」という。)は□□に代わって被告との取引を行っていた原告X1に対し、ワラントに関して転換社債や株式より儲けが大きいという話をした程度で、ワラントが新株引受権であること、ワラントには行使期限があり、これを過ぎるとワラントの価値がゼロになること、高い危険性があること等ワラントの商品性に関する重要な要素について何一つ説明していない。

(4)  原告原告X2について

被告宮崎支店の営業員であったD(以下「D」という。)は原告X2に対し、本件長谷工ワラントを勧誘する際「長谷工コーポワラントがあります。面白いので投資してみませんか。」と言っただけで、ワラントが新株引受権であること、ワラントには権利行使期限があり、これを過ぎるとワラントの価値がゼロになること等ワラントの商品性について重要な要素に関する説明を全くしておらず、かえって、ワラントは転換社債に似ており、転換社債のうち価格の変動する部分の売買に似ているなどと転換社債と誤認させかねない説明をした。また、被告は原告X2に対し、本件長谷工ワラント取引の際、ワラント取引に関する説明書を交付しておらず、かつ、原告X2からワラント取引に関する確認書を徴求することもしていない。

(5)  原告X3について

Bは原告X3が被告と証券取引を行う際の代理人であった□□に対し、ワラントとは外国で発行された転換社債と同じものであると説明しただけで、ワラントが新株引受権であること、ワラントは株式以上にハイリスク・ハイリターンな商品であること、ワラントは権利行使期限が過ぎれば価値がゼロになる商品であること等ワラントの商品性に関する重要な要素の説明をしなかった。また、原告X3ないし□□は、平成三年一〇月三日に至るまでワラント取引に関する説明書を受け取ったことはなく、ワラント取引に関する確認書及び外国証券取引口座設定約諾書についても、それらが郵送されてきた際、□□がBに対して、それらが何の書類であるかを電話で確認したところ、Bは、心配するものではないから、捺印して返送してくれればいいと言ったことから、□□は原告X3名義の署名をし、押印した上で返送したものであって、Bから右確認書の趣旨内容やワラントに関する説明を受けたことはない。

(三)  原告らの損害

(1)  原告X1

① 本件三菱電機ワラントの購入代金三四七万一一二〇円

② 不法行為後である平成四年九月一二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

③ 弁護士費用三五万円

(2)  原告X2

① 本件長谷工ワラントの購入代金一九九万九三八四円

② 不法行為後である平成四年九月一二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

③ 弁護士費用二〇万円

(3)  原告X3

① 本件セキスイワラント購入代金二二〇万五九一二円

② 不法行為後である平成六年一〇月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

③ 弁護士費用二二万円

(四)  過失相殺について

本件のようなワラント購入については、これを勧誘した側(証券会社)にも問題があるが、その勧誘にのってこれを安易に購入した顧客の方にも一定の過失があるとする議論がある。かかる議論においては、購入側が過去に証券取引の経験を有し、証券取引に関して一定の専門的知識を備えているほど過失割合が高くなると理解され、過去に証券等の取引経験を有するものとそうでない者との間で過失の程度に差を設けようとする考えが一般的である。しかしながら、ワラントは、かつて我が国の証券取引業界に存在しなかった極めて複雑、かつ、特異な商品であって、過去にいかに株式等の証券取引の経験を有していようとも、その経験から直ちにワラントの商品内容や危険性を認識することができるというわけではなく、顧客の過失を問うことは極めて酷であり、百歩譲って顧客に落ち度が認められるとしても、その過失の程度は極めて低いというべきである。

2  被告

(一)  適合性の原則違反の点について

(1)  大蔵省証券局長通達「投資者本位の営業姿勢の徹底について」の1の(2)は「投資者に対する投資勧誘に際しては、投資者の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われるよう十分配慮すること」と規定しているところ、投資者の意向、投資経験及び資力等は投資者のプライバシーにわたる事実であり、何ら特別の調査権限を認められていない証券会社にとって容易に知りえない事実である。したがって、証券会社側が、これを基準に当該投資がその投資者に最も適合した投資であるか否かを客観的に判断することはおよそ不可能である。よって、同通達を根拠として適合性の原則を証券会社の法的義務とすることはできない。右通達は、当該証券会社の業務の状況が、投資の適合性を欠く投資者に対する投資勧誘を常態化しているような場合に、その業務方法を是正することを目的としたものである。

(2)  ワラントには、ハイリスクである反面、ハイリターン性、小口投資性、損失限定等他の商品にはないメリットがあるのであって、一般投資家に適合しない商品ではない。したがって、ワラントの特性(ハイリスク・ハイリターン性)を知った上でこれに投資する限り、一般投資家にこれを勧めたからといって何ら問題は生じない。

(3)  被告は、公正慣習規則第九号五条を受けて、顧客管理規定を定め、その六条において、ワラントに関する取引開始基準を設けている。すなわち、①証券投資に関する相当の知識・経験を有していること、②預り資産一〇〇〇万円以上であること(平成元年九月三〇日改正により、それ以後は、金融財産一〇〇〇万円以上の場合を含む。)、の二要件である。しかしながら、右開始基準は、あくまでも被告内部における自主的なルールにすぎないものであり、顧客に対する法的義務として定めているものではない。したがって、仮に、右開始基準を満たしていない顧客に対してワラントを勧誘したとしても、社内ルールに違反するにすぎず、直ちに顧客に対する関係で違法となり、不法行為を構成するものとはいえない。

(4)  原告X1について

□□は、被告との取引開始以前に、すでに他の複数の証券会社との間で投資信託、転換社債、外国株式取引などの有価証券取引を行っており、右投資金額は一〇〇〇万円位に達していたこと、□□の代理人である原告X1が被告との証券取引を開始したきっかけは、他の証券会社での取引において損を出していたことから、儲けさせてもらおうと考え、被告宮崎支店の店頭を訪れたことから始まったものであり、原告X1において積極的に証券取引を行う態度を示していたこと、□□は、家屋を二か所所有しているほか、駐車場を経営しており、経済的には何の不自由もない状況であること、Cは、投資金は余裕資金であると認識しており、老後の資金であるとは聞いていなかったこと等の諸事情からすると、□□ないし原告X1は、豊富な投資経験と積極的な投資意欲を有していたと認められ、ワラント取引に関する適合性が欠けているとはいえない。

(5)  原告X2について

原告X2は、昭和六二年一一月一七日以降、被告を通じて継続的に、かつ、多数回にわたって証券取引を行っており、平成三年三月からは、株式の信用取引を開始したこと、原告X2は、被告との取引を開始する以前から他の複数の証券会社との間でも取引を行っていたこと等の諸事情からすると、原告X2は能動的に証券投資を行っていたベテラン投資家であって、ワラント取引に関する適合性が欠けているとはいえない。

(6)  原告X3について

原告X3は、被告において、原告X3個人名義の他、名義等複数の口座を開設し、妻である□□がその代理人として被告との取引を行っていたところ、□□は被告との間で、右各口座を通じて、投資信託、転換社債、株式、ワラントの各取引を多数回にわたって行っていた。また、原告X3は、被告以外の証券会社との間でも証券取引を行っていたのであって、原告X3ないし□□の証券取引の知識経験は豊富であり、かつ、投資意欲も極めて旺盛であったといえる。したがって、原告X3にはワラント取引に関する適合性が欠けるとはいえない。

(二)  説明確認義務違反の点について

(1)  証券会社には、顧客に対する法的義務として説明義務はないというべきである。すなわち、自己責任の原則からすると、顧客が、たとえ当該商品の内容を十分に理解していなかったとしても、自らの判断でワラント取引へ投資することを選択した以上、その取引による利益ないし損失は当該顧客に帰属する。しかし、このような状況は証券会社にとっては望ましいことではない。なぜなら、かかる状況は、顧客に対するサービスが十分でなかったことを示すものであって、営業政策上問題があるだけでなく、顧客との間のトラブルに発展する可能性があるからである。そこで、証券会社は、ワラント取引をしようとする顧客に対しては、ワラント取引に関する説明書を交付することによって、できるだけワラントの商品性等について正確な理解を得てもらうように務め、又、これを実行した場合に、確認書を徴求することによって右事実を明確にし、顧客との間でトラブルを未然に防止するとともに、営業活動を円滑ならしめるために日本証券業協会において、公正慣習規則第九号を制定した。したがって、この公正慣習規則の規定は、営業活動の円滑化と紛争や事故の事前防止のために、証券業界の自主的措置として行っているものであって、顧客に対するサービス業務としての意味しかなく、義務の履行として行っているものではない。よって、仮に証券会社において、右規定に違反した場合には、日本証券業協会から処分を受けることはあっても、顧客に対する関係で違法の問題を生ずることはないというべきである。

(2)  また、仮に法的義務としての説明義務を認めるべき場合があるとしても、他方で投資者には自己責任の原則が適用されることに照らし、説明すべき事項としては、ワラントがハイリスク・ハイリターンの性格を有する証券であることについて、投資家の注意を促す程度で足りると解すべきである。なぜならば、そのような説明があれば、投資家は、ワラントのリスクの大きさや内容などについてさらに詳しく調査し検討した上で、投資するかどうかを判断する機会を持つことができるからである。そして、右の注意を促すための具体的な方法や程度は、個々の投資家の投資経験や投資目的、証券投資に関する知識等に応じて、個々の顧客ごとに、かつ、個々の約定ごとに判断すべきことであって、画一的一律的に決すべきものではない。

(3)  原告X1について

Cは原告X1に対し、本件三菱電機ワラントの購入を勧誘した際、ワラントには最大のリスクがつきまとうということ、ワラントには権利行使期限があり、それが切れればゼロになるので、途中で売ったほうがいいこと、ワラントの価格は株式に連動し、その上がり下がりは非常に大きいこと、をそれぞれ説明し、原告X1は右の説明を理解した上で、本件三菱電機ワラントの購入を承諾した。□□は原告X1を通じて被告に対し、本件三菱電機ワラントの購入にあたり、外国証券取引口座設定約諾書及びワラント取引に関する確認書を差し入れている。また□□ないし原告X1は、本件三菱電機ワラント買付け後、被告から本件三菱電機ワラントの預り証の交付を受けているところ、右預り証には、権利行使最終日が明記されており、権利行使期限に関する説明を受けていなければ、被告に対して問い合わせを行うのが通常であるが、原告X1は被告に対し、この点について何らの問い合わせも行っていない。以上の事実からすると、原告X1は、Cの説明を聞いて納得した上で、本件三菱電機ワラントを購入したものである。

(4)  原告X2について

Dは原告X2に対し、本件長谷工ワラントを勧誘した際、ワラントという新しい商品があること、ワラントは、転換社債の社債を抜いた部分、つまり値動きのある部分の売買に似ていること、ワラントの価格は、株式が一割上がれば一割五分とか二割上がり、株式が一割下がれば一割五分とか二割下がるものであって、その値動きの幅が荒い商品であること、ワラントには権利行使期限があり、最終的にはゼロになる危険もあるが、リスクが限定されているので取引妙味があること、ワラントは転換社債と異なり、満期金というものは返還されないが、その途中で売り買いする商品であること、を説明した。

(5)  原告X3について

Bはに対し、平成元年五月ころ、原告X3が初めてワラント取引を行う際に、ワラントは、株式が一割上がれば三割位上がるが、逆に株式が一割下がれば三割位下がるものであって、ハイリスク・ハイリターンの商品であること、ワラントには権利行使期限があり、最終的にはゼロになる可能性のある商品であること、ワラントは転換社債の値動きの部分に近い商品であること等について説明をした。その際Bは、ワラントの一番のポイントであるハイリスク性に重点を置いて説明し、細かい計算関係や権利行使株数等についての説明はしなかったが、新株引受権であること等ワラントの性格についてはその概略を説明した。また、Bは、原告X3の右ワラント取引の前後に、ワラント取引に関する説明書を原告X3に郵送し、また、本件セキスイワラントの取引前において、原告X3名義の記名押印のあるワラント取引に関する確認書及び外国証券取引口座設定約諾書を□□から徴求している。

第三争点に対する当裁判所の判断

一 前提事実等

甲第一一号証、第一二号証、乙第一ないし第一七号証、第二二号証の1、2、第二七号証の1ないし5、第二八号証の1ないし7、第二九号証の1ないし26、第三〇号証ないし第三二号証の各1ないし6、証人C、同D、同Bの各証言、原告、同、取り下げ前の原告の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により認められる事実

1 当事者等

(一) 原告X1について

(1) □□(以下「□□」という。)は、明治二九年生まれの男性であって、平成元年八月一一日、妻の原告X1(昭和八年生まれ)を代理人として被告との間で株式取引を開始した。□□の被告における証券取引に関しては、原告X1が□□に代わってすべて行っていた。□□は、平成四年三月一日死亡し、本訴請求債権は妻である原告X1が相続した。なお、□□は証券会社との取引に関するすべての代理権を原告X1に授与していた。したがって、以下においては、特に断らない限り原告X1の行動は□□の代理人としてのものである。

(2) Cは、昭和六一年七月から平成二年一月までの間、被告宮崎支店に営業課長代理として勤務し、□□の被告における取引当初からその証券取引を担当した。

(二) 原告X2について

(1) 原告X2は、昭和二二年生まれの男性であって、調理師としての技術を有し、宮崎市内において料理店を経営している者であるが、昭和六二年一一月一七日、被告に口座を開設して証券取引を開始し、以後、株式及び投資信託を中心として継続的に証券取引を行っていた。

(2) Dは、昭和六〇年一二月から平成二年一月までの間被告宮崎支店に勤務し、昭和六三年一一月から原告X2の証券取引を担当した。

(三)  原告X3について

(1)  原告X3は妻である□□を代理人として被告との間で証券取引を行ってきたところ、□□は、昭和五八年一一月一八日、原告X3が住職の地位にある**名義の口座を開設し、証券取引を開始した。その後、平成元年になって、原告X3及び□□個人名義の口座も開設してそれぞれの口座において証券取引を行ってきた。

(2)  Bは、昭和六一年七月から平成四年一月までの間、被告宮崎支店に勤務し、原告X3の証券取引を担当した。

(四)  被告は、有価証券の売買等の証券業を行う株式会社である。

2 ワラントについて

(一) ワラント(新株引受権)とは、発行された分離型新株引受権付社債から分離された新株引受権部分、つまり、あらかじめ定められた一定期間(権利行使期限)内に、一定の価格(権利行使価格)で、一定の数量(権利行使株数)の新株を引き受けることができる権利である。

(二) ワラントは、権利行使期限を経過するとその価値を失うものであって、ワラントを買い付けた場合には所定の権利行使期限内にワラントをそのまま売却するか、権利行使して新株を取得し、それを売却して利益を得るかを選択しなければならない。ワラント債発行会社の株価が権利行使価格を上回っている場合であれば、ワラントへの投資者は権利を行使することにより一般市場で株式を取得するより有利に新株を取得する機会を得るが、株価が権利行使価格を下回る場合であれば、投資者は権利を行使する経済的な意味を失うことになる。したがって、ワラントの価格(通常はポイント数、すなわち、当該ワラントの社債額面に対する割合を百分率で示したもの、で表示される。例えば、ドル建てのワラント債の社債額面が五〇〇〇ドルで、ワラント価格が二五ポイント、為替レートが一ドル当たり一〇〇円であれば、当該ワラントの価格は一二万五〇〇〇円となる。)は、新株引受権を行使して得られる利益相当額、即ち、当該ワラント債発行会社の株価から権利行使価格を差し引いた額によって規定される(いわゆるパリティー)が、現実の市場では、将来における株価の上昇を期待して、右の額にプレミアム(将来における株価上昇の期待値)が付加された価格で取引されている。このようなワラントの性質から、一般的にワラントの価格は当該ワラント債発行会社の株価の上下に伴ってその数倍の幅で上下する傾向(ギアリング効果)があるため、株式を売買した場合に比較すると、少額の資金で大きな投資効果をあげることもできるが、その反面値下がりも激しく、場合によっては投資資金の全額を失うこともある。ただし、これは主としてワラント価格におけるパリティ部分の価格変動を考慮の対象とした場合であり、ワラント価格に占めるプレミアム部分の割合が大きいときには株価変動がワラント価格変動に対応しない場合がある。これはプレミアム価格が権利行使期間の長短、将来の株価予測等の総合判断によって決定され、明確な指標がないことによるものである。それにしても、ワラントの価格変動についてその大略の傾向としては前述のようにいうことができる。以上のようにワラントは、ハイリスク・ハイリターンな商品である。

3  本件各ワラント取引について

(一)  原告X1について

原告X1は、Cの勧誘を受けて、平成元年一二月一四日、被告から本件三菱電機ワラント(ドル建て外国ワラント、権利行使期限平成五年三月三一日、社債額面額一〇万ドル、単価二四・〇〇ポイント)を代金三四七万一一二〇円で買い付けた。

(二)  原告X2について

原告X2は、Dの勧誘を受けて、平成元年一二月二一日、被告から本件長谷工コーポワラント(国内ワラント、権利行使期限平成七年一二月一四日、単価二四・七五ポイント)を代金二〇〇万二四五四円で買い付けた。

(三)  原告X3について

原告X3の代理人である□□は、Bの勧誘を受けて、平成二年一月八日、被告から本件セキスイワラント(ドル建て外国ワラント、権利行使期限平成五年四月二八日、社債額面額五万ドル、単価三〇・五〇ポイント)を代金二二〇万五九一二円で買い付けた。

4  本件各ワラント取引による損失

(一)  原告X1

□□が買い付けた本件三菱電機ワラントは、その権利行使期限である平成五年三月三一日を経過したため経済的価値のないものとなった。よって原告X1は本件三菱電機ワラントの買付代金相当額である三四七万一一二〇円の損失を被った。

(二)  原告X2

原告X2が買い付けた本件長谷工ワラントは、現時点においてほとんど価値のないものと認められ(弁論の全趣旨)、かつ、権利行使期限(平成七年一二月一四日)が間近に迫っており、その財産的価値が右期限までに回復すると予測すべき事情はないことから、結局財産的価値のないものと評価するのが相当である。よって、原告X2は、本件長谷工ワラントの買付代金相当額である二〇〇万二四五四円の損失を被った。

(三)  原告X3

原告X3が買い付けた本件セキスイワラントは、その権利行使期限である平成五年四月二八日を経過したため経済的価値のないものとなった。よって原告X3は本件セキスイワラントの買付代金相当額である二二〇万五九一二円の損失を被った。

二 争点に対する判断

1 本件各ワラント取引における事実の経過

(一)  原告X1について

争いのない事実並びに甲第一一号証、第一二号証、乙第二ないし第五号証、証人Cの証言、原告X1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実を認めることができる。

(1)  本件三菱電機ワラント買付け以前の取引状況

原告X1は、昭和六〇年ころ、野村證券の営業担当者に勧められて証券会社との取引を開始したが、その内容は、投資信託の受益証券、社債及び転換社債の購入が主たるものであった。原告X1は、野村證券以外にも日興證券、山一證券、東京証券での取引があったが、投資内容は野村證券におけると同様であった。平成元年八月ころになって、原告X1は、もっと効率のよい利殖方法を求めて被告宮崎支店を訪問し、当時、被告宮崎支店営業課長代理であったCを知った。原告X1が他の証券会社における転換社債の取引の状況が思わしくない旨を述べたところ、Cは、原告X1に対しソニー株式の購入を勧めた。そこで原告X1は、平成元年八月一一日、被告において、□□名義の口座を開設するとともに、被告を通じてソニー株式一〇〇株を八九万〇八六七円で購入した。その後、同月二一日、原告X1は、Cの勧誘により、シーケーディー株式一〇〇〇株を一四四万六七八九円で購入し、さらにCの勧誘により、同年一〇月五日、右シーケーディー株式を一五七万〇四二七円で売却した上で、宮崎銀行株式一〇〇〇株を一一一万三三九〇円で購入した。右株式取引に関しては、いずれもCの勧誘に基づくものであり、原告X1の方から購入の依頼や具体的銘柄等を指定するなどということはなかった。そして、原告X1は、本件三菱電機ワラントの購入までワラント取引の経験はなく、又、右購入後、それ以外にワラント取引を行ったことはなかった。

(2)  本件三菱電機ワラント買付け時の状況等

① 平成元年一〇月ころ、Cは電話で原告X1にワラントの買付けを勧誘した。その際Cは、ワラントについて、株式価格との連動があり、上下が激しい商品であることなどを説明した。しかし、ワラントが新株引受権であること、権利行使期限があり、この期限経過後は無価値となるものであることについては説明しておらず、また、Cがしたワラントの商品性についての説明は電話を通じてしたのみであり、面談の上されたものではなく、したがって、説明の際に説明書を補助的に使用するといったことも行っていない。このようなCの勧誘に対し、原告X1はワラントがどういう商品であるか理解することができなかったため、右勧誘を断った。その後もCは電話で、原告X1に対し、二度にわたりワラントの買付けを勧誘したが、右同様の理由で原告X1は断り続けた。

② 平成元年一二月ころ、Cは原告X1に対して、電話でワラントの購入を勧誘したところ、原告X1は、Cが繰り返し勧誘することから、□□と相談した上で、同月一四日、ワラントを購入することを決意し、その旨をCに伝え、同日、本件三菱電機ワラントを代金三四七万一一二〇円で買い付けた。また、原告X1は□□を代理して、ワラント取引に関する確認書(乙第四号証)に□□名義で署名押印した上で、右確認書を被告に差し入れた。しかし、その際、Cあるいは被告の従業員が原告X1に対し、改めてワラントの商品性に関して説明するということはなく、ワラント取引に関する説明書の交付もされなかった。また、本件三菱電機ワラント購入後においても、Cは原告X1に対して、ワラントの商品性を説明することはなかった。

③ 本件三菱電機ワラントを含め、原告X1が証券取引に充てた資金は老後のために貯蓄していたものであり、また、原告X1は本件三菱電機ワラント以外にワラント取引を行ったことはなかった。

④ 原告X1が本件三菱電機ワラントを購入した時点における同原告X1のワラントの商品性についての理解は、株式や社債に類似するもので利益が出るときにはそれらよりも遥に大きな利益を得ることができるという程度のものであった。

(3)  右認定事実に関し、原告X1は、Cからワラントがどういうものであるかについての説明を全く受けなかったとの趣旨の供述をしている。しかしながら、右の点に関する原告X1の供述は不明確な点がある上、原告X1自身、本件ワラント買付け前にCからワラントという商品を知っているかどうか尋ねられ、その後いろいろと難しいことを言われたとも供述していること、Cは、原告X1が被告を通じて証券取引を開始した当初からの担当者であり、原告X1が初めて取引を行う商品について、何らの説明も行うことなく投資を勧誘するということは通常考え難いこと等の諸事情から判断すると、先に認定したとおり、Cは原告X1に対し、本件三菱電機ワラント取引の前に、電話で、ワラントに関する前記認定した事項を説明したと認めるのが相当である。よって、この点に関する原告X1の前記供述は採用できない。

他方、Cは、原告X1に対しワラントには権利行使期限があり、権利行使期限を過ぎるとワラントの価値がゼロになることについて説明した旨証言している。しかしながら、右の点に関するCの証言は曖昧である上、原告X1はワラントがどういう商品であるのかわからないという理由でCの勧誘を何度も断っているのであり、このような原告X1とCとのワラント購入に関する交渉の経過及び前記のような原告X1の証券取引に対する投資態度(原告X1の被告における株式取引は、すべてCの勧誘に基づいて行われたもので、自ら積極的に銘柄を指定して購入を依頼したことはないこと。)、投資資金の性格(Cの認識はどうであれ、少なくとも原告X1にとっては、老後のために貯蓄していたものであった。)等を総合して考慮すると、Cは原告X1に対し、ワラントは権利行使期限が過ぎると価値がなくなることについて説明していないものと推認するのが相当である。Cの前記供述は、これらの点に照らし採用できない。

(二)  原告X2について

争いのない事実並びに乙第一五ないし第一七号証、第二七号証の1ないし5、第二八号証の1ないし7、証人Dの証言、原告X2本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  本件長谷工ワラント買付け以外の原告X2の取引状況

原告X2は、昭和六二年一一月一七日、被告において、原告X2名義の口座を開設し被告を通じて証券取引を開始し、以後継続的に株式及び投資信託等の証券取引を行っていたが、株式購入対象企業は三菱重工業、東京電力といった著名企業が中心であった。なお、原告X2は、本件長谷工ワラント買付け後である平成三年三月一九日、被告において株式の信用取引口座を開設し、株式(日本軽金属)の信用取引を一度行ったことがあるが、信用取引を行ったのはこれ一度であり、この取引は六か月後に約一九〇万円の損害を出して終了している。ワラントについては、本件長谷工ワラントを購入するまで、ワラント取引の経験はなく、その後も本件長谷工ワラント以外にワラント取引を行ったことはなかった。

(2)  本件長谷工ワラント買付け時の状況等

① 平成元年一二月二一日、Dは原告X2に対し、電話で、ワラントの購入を勧めた。その際Dは原告X2に対し、転換社債との比較を例にとって、ワラントとは転換社債の社債部分を抜いた部分、値動きのある部分であって、それの売り買いによく似ていること、リスクは限定されており、取引妙味があること、ワラントの価格は株価に比べて上下が激しいことを説明した上で、本件長谷工ワラントの銘柄及び価格を告げた。しかし、本件長谷工ワラントの権利行使期限がいつまでであるかという点、ワラントは権利行使期限を過ぎると価値がゼロになるという点及びワラントが新株引受権を表象する権利であるという点については明確な説明をしなかった(この点Dは原告X2に対し、五、六年先に最終的にはゼロになると説明した旨述べるが、右証言の全体からしても、ワラントには権利行使期限があり、それを経過すると価値がなくなること、本件長谷工ワラントの権利行使期限がいつであるかということに関して、Dが原告X2に対して明確に説明をしたと認めることはできない。)。右説明は、全体で一〇分程度のものであった。原告X2は、右勧誘時において、ワラントがどういう内容の商品であるかということについてはまったく知らなかったが、Dの右説明により、ワラントと株式が違った商品であるということは理解できた。しかし、それ以上のものではなく、結局原告X2のワラントの商品性についての理解は、株式とは異なり、転換社債に近いものであること、株式の価格に連動して価格が上下するが、その動きの幅が株式よりも大きいという程度のものであった。

② 同日、原告X2は、Dの右勧誘によって、本件長谷工ワラントを二〇〇万二四五四円で買い付けた。右買付代金は、同日売却した日本ユニシス株式の売却代金を充てた。

③ その後、Dは、原告X2が経営する料理店を訪問し、日本ユニシス株式の預り証を回収するとともに、本件長谷工ワラントの預り証を交付する等本件長谷工ワラント購入にかかる入出金手続を行った。なお、本件長谷工ワラントの買付け前後において、Dは原告X2に対し、ワラント取引に関する説明書を交付することはなく、また、原告X2からワラント取引に関する確認書を徴求することもなかった。

④ 原告X2が証券取引に充てていた資金は、特定の使途を予定していたものではなく、いわば余裕資金であった。

(三)  原告X3について

争いのない事実並びに甲第二五号証、乙第六号証ないし第一四号証、第一八号証ないし第二一号証、第二九号証の1ないし26、第三〇号証の1ないし6、第三一ないし第三二号証の各1ないし6、第三三号証、証人Bの証言、取り下げ前の原告X3本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  本件セキスイワラント買付け前の取引状況

① 原告X3の妻でその代理人である□□は、被告に□□の口座を開設し、昭和五八年一一月一八日から証券取引を開始した。その後□□は、平成元年七月には原告X3の代理人としてその口座を、同年八月には自らの口座を開設して、**及び各個人として多数回にわたって証券取引を行ってきた。原告X3は、被告との間の証券取引に関して□□に包括的な代理権を与え、□□が被告との取引を担当してきたが、原告X3及び□□の取引方針は、大きな値上がり益を追求するものではなく、比較的安全な商品で銀行預金よりは運用利回りのよい商品を購入するというものであって、□□は、被告担当者が交代するたびにその旨を担当者に告げており、実際にも、資金の運用方法は、昭和六一年ころまでは、価格の安定している大企業株式や国債を組み込んだ投資信託の購入がほとんどであった。昭和六一年七月からは被告の担当者がBになったところ、その後約一年間は□□の投資傾向に変化はなかったけれども、昭和六二年九月ころからは転換社債を購入することが多くなった。そして、平成元年の取引量は、それ以前に比較して著しく増加しており、かつ、それ以前はほとんど行われていなかった株式取引も行うようになっている。しかし、株式取引といっても、対象企業はソニー、宮崎銀行といったところであり、比較的値動きの少ない株式であった。

② 平成元年五月ころ、Bは、□□に対し、ワラントの購入を勧めた。その際、Bは□□に対し、株式が一割上がればワラントは三割上がるが、逆に株式が一割下がればワラントは三割下がるというようにワラントはハイリスク・ハイリターンの商品であることは明確に説明したものの、ワラントには権利行使期限があり、それを経過すると無価値になることについては、説明中で触れることはしたが、曖昧な表現で述べたにとどまり、独立の項目として明示して解説はしておらず、ワラントが新株引受権であること、ワラント価格の計算方法については全く説明しなかった。□□はBの右勧めにより、平成元年五月三〇日、**の代理人としてダイケンコウワラントを代金一八四万一一〇〇円で買い付けた。同年七月二〇日、□□は、**の代理人とし右ワラントを一九一万五二八七円で売却し、その結果、七万四一八七円の利益を得た。

③ 平成元年八月一六日、□□はBの勧誘により、原告X3の代理人として日本電気ワラントを代金一七〇万五二〇〇円で買い付けた。平成二年一月八日、□□は原告X3の代理人として右ワラントを一九二万〇七二七円で売却し、その結果、二一万五五二七円の利益を得た。

④ □□は、Bの勧誘により、平成元年九月六日、**の代理人として東京海上ワラントを代金一八〇万五四〇〇円で買い付け、これを同年一一月九日に一六七万三二一八円で売却し、その結果、一三万二一八二円の損害を被った。

⑤ 平成元年一二月二一日、□□はBの勧誘により、原告X3の□□の代理人として長谷工コーポワラントを一二五万九八八三円で購入し、これを、平成二年二月二日に一二七万七四一七円で売却し、その結果一万七五三四円の利益を得た。

⑥ 原告X3が証券投資に充てた資金は、特定の使途を予定していたものではなく、いわば余裕資金であった。

⑦ Bは、□□が最初にワラントを購入した平成元年五月ころ、被告が作成した「分離型ワラント」と題するワラントの説明書(国内ワラント、外貨建てワラント双方を同一書面で説明したもので、ワラントの商品性につき必要な解説が加えられている。)を□□に送付したが、右説明書に基づいて対面の上説明することはしていない。また、原告X3から被告あてに平成元年八月一六日付けで「ワラント取引に関する確認書」と題する書面が提出されており、そこには見易い文字で「私は、貴社作成のワラント取引についての説明書の内容を理解し」と記載されているが、右時期に□□又は原告X3が被告から説明書の交付を受けたことはなく(□□への説明書の交付は前認定のとおり約三か月前のことである。)、改めてワラントの商品性に関する説明を受けたこともなかった。

⑧ □□が本件セキスイワラントを購入した時点における同人のワラントの商品性についての理解は、転換社債に類似するもので株式価格に連動して価格が動くハイリスク・ハイリターン商品であるという程度であり、ワラントが新株引受権であること、権利行使期限があり、それが経過すると無価値になるものであることについては、理解していなかった。

(2)  本件セキスイワラント買付け時の状況等

□□はBの勧めにより、平成二年一月八日、原告X3の代理人として本件セキスイワラントを代金二二〇万五九一二円で買い付けた。右買付代金は、原告X3が買い付けていたウエスト株式及び日本電気ワラントを売却した代金を充てた。本件セキスイワラント購入にあたっては、Bは□□に対して、改めてワラントの商品性等に関する説明を行わなかった。

(3)  右認定事実に関し、□□は、Bからワラントの商品性についての説明がなく、かえって、ワラントは、新発売の転換社債と同じものであって、心配する商品ではないと言われた、ワラントに関する確認書に署名押印したことは間違いないが、それはBに署名押印して返送してくれればいいと言われたからである、ワラントに関する説明書を受け取ったことはない旨述べている。しかしながら、□□自身、平成元年八月一六日付けのワラントに関する取引確認書及び外国証券取引口座設定約諾書にそれぞれ原告X3名義の記名押印をしたことは認めており、右確認書には「ワラント取引についての説明書の内容を理解し」と明確に記載されていること、右確認書のこのような記載を読みながら右説明書を受領することなく右確認書に署名押印又は記名押印して返送することは通常考え難く、□□の右確認書の記名押印に関する供述は不自然であることを総合して考慮すると、□□は、少なくとも本件セキスイワラント取引の前である平成元年八月中旬ころにはワラント取引に関する説明書を受け取っていたと推認するのが相当である。さらに、乙第一八ないし第二一号証、証人Bの証言、取り下げ前の原告X3本人尋問の結果によれば、□□の前記供述自体曖昧な点があること、本件セキスイワラント以外のワラント取引に関する入出金手続に関して、特別トラブルがあったとは認められないこと、□□は、ワラント取引のたびごとに権利行使期限等の点で株式と明らかに異なる表示のされたワラント預り証の交付を受けていることがいずれも認められる。以上のような諸事情を総合して勘案すると、Bが□□に対してワラントの商品性に関して全く説明をしなかったとは認められず、□□はBから前記認定したワラントに関する説明を受けたものと認めるのが相当である。よって、この点に関する□□の前記供述は採用できない。

2 ワラント取引を行うにあたり顧客及び証券会社が留意すべき事項

(一)  証券取引は、本来、リスクを伴うものであって証券会社が投資家に提供する情報、助言等も経済情勢や政治状況等不確実な要素を含む将来の見通しに依らざるを得ないのであるから、投資家自身において、右情報等を参考にして、自らの責任で当該取引の危険性の有無、その程度を推認し、見通しが外れて損害を被ることをも想定し、そのような事態が発生した場合に、それに耐えられるだけの財産的基礎を有するか否かを判断して取引を行うべきものであって、このことは本件のようなワラント取引においても妥当するものである。

(二)  しかし、証券会社と一般投資家との間では、証券取引についての知識、情報に質的な差があり、しかも、証券会社は一般投資家と証券取引をすることにより、一般投資家が利益を得るか損害を被るかにかかわりなく、取引額に対する一定割合の手数料収入(ワラントの場合は売買差額)を得る立場にあることからすると、証券会社又はその使用人が投資家に投資商品を勧誘する場合には、投資家の職業、年齢、財産状態、投資目的、投資経験等に照らして明らかに過大な危険を伴うと考えられる取引を積極的に勧誘することを避けるべき注意義務を負い、また、一般投資家に対して商品の内容が複雑でかつ取引に伴う危険性が高い投資商品を勧誘する場合には、個々の投資家の投資経験、投資に関する知識、判断能力等に応じて、信義則上、当該商品の概要及び当該取引に伴う危険性について具体的に説明する義務を負うことがあるというべきである。

(三)  適合性の原則、説明確認義務に関する営業準則等

(1)  甲第九号証の2ないし4、第二二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らが被告と本件各ワラント取引を行った平成元年一二月から平成二年一月当時において、効力を有していた営業準則等とその内容は次のようなものであったと認められる。

① 昭和四九年に大蔵省証券局長から日本証券業協会会長宛に発せられた通達である「投資者本位の営業姿勢の徹底について」(昭和四九年一二月二日蔵証二二一一号)は、証券会社がする投資勧誘に際しては、「有価証券の性格、発行会社の内容等に関する客観的かつ正確な情報を投資者に提供すること」、「投資者の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われるよう十分配慮すること」、「証券投資に関する知識、経験が不十分な投資者及び資力の乏しい投資者に対する投資勧誘については、より一層慎重を期すること」との内容であった。

② 平成元年四月一九日から発効した日本証券業協会理事会決議(「外国新株引受権証券の店頭気配発表及び投資勧誘について」)において、投資勧誘に関して以下の趣旨の決議がされた。すなわち、証券会社は、①外国新株引受権証券の取引を行う顧客の投資経験等を慎重に勘案し、顧客の実情に適合した投資勧誘を行う、②顧客と外国新株引受権証券の取引を行おうとするときは、あらかじめ説明書を交付し、取引の概要と取引に伴う危険について十分説明するとともに、取引開始に当たっては、顧客の判断と責任において取引を行う旨の確認を得るため、顧客から「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」を徴求する、との内容である。この決議をうけて各証券会社ではその趣旨に沿った内容の内部規程を作成し、あるいは従来からある規程の変更を行った。

(四)  もっとも、これらの通達、決議は営業準則としての性質を有するにすぎないのであるから、証券会社の顧客に対する投資勧誘がこれらの規定に違反したからといって、直ちに私法上も違法と評価されるものではない。

3 本件各勧誘の違法性

(一)  適合性の原則違反の有無

(1)  右に述べたワラントの商品性、ワラントの勧誘及び販売の各行為に対する行政上の規制や業界団体内部の自律的規律の存在等を総合して考慮すると、証券会社の一般投資家に対するワラント買付けの勧誘が、当該投資家の財産状態、投資経験等に照らして過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものと評価される場合は、当該取引の危険性の程度(当該投資資金の当該投資家の資産に占める割合及び当該投資資金の性質等)、その他当該取引がされた具体的事情いかんによっては、私法上当該勧誘が違法と評価されることがありうるというべきである。しかしながら、原告らが主張するように、勧誘の対象者が一般の個人投資家であることのみを根拠として、勧誘行為が適合性の原則に違反し、違法であるとすることはできない。

(2)  原告X1について

前記第三・一1及び第三・二1(一)でそれぞれ認定したとおり、□□は本件三菱電機ワラント取引を行った当時九〇歳を超える高齢であり、かつ、直接被告との間で証券取引を行った原告X1にしても、右取引当時五〇歳半ばの普通の主婦であったこと、□□は、被告との間で取引を始めるまではワラント取引の経験は全くなく、株式取引もほとんど行ったことがなく、投資信託の受益証券、社債及び転換社債の購入の経験を有していたにすぎないこと、原告X1が、初めてのワラントの取引として本件三菱電機ワラントを購入したのは、被告において株式取引を始めてわずか四か月後であったこと、原告X1が証券取引に充てた資金は、老後のために貯蓄していたものであること等の事実からすれば、原告X1が本件三菱電機ワラント取引当時、ワラント取引に関する適合性を有していたかどうか大いに疑問ではある。しかし、原告X1は夫とともに駐車場を経営するなどある程度の財産を有していたこと、原告X1は、被告宮崎支店を訪れ、他の証券会社における取引(転換社債)の状況が思わしくないことを述べた上で、より効率的な利殖方法の相談を行っており、その投資態度、投資意欲は必ずしも消極的なものとはいえないこと等の諸事情を総合して勘案すると、Cがした本件三菱電機ワラント買付けの勧誘が、□□及び原告X1に対し、過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものとして被告に不法行為の責めを負わせるべき程度の違法性(適合性原則違反)があったとまではいえないと解するのが相当である。よって、この点に関する原告X1の主張は理由がない。

(3)  原告X2について

前記第三・一1及び第三・二1(二)で認定したとおり、原告X2は、本件長谷工ワラント取引を行った当時四〇歳過ぎであり、調理師の技術を有し料理店を経営していた者であること、原告X2は、昭和六二年一一月から被告を通じて証券取引を開始し、以後被告において継続的に証券取引を行っており、原告X2の証券取引に対する投資態度は、積極的なものであったこと、本件長谷工ワラント買付代金は少額とはいえないが、原告X2がそれまでに行っていた証券取引に比し著しく多額というものではなく、その買付代金も余裕資金であったこと等の諸事情からすると、Dがした本件長谷工ワラント買付けの勧誘が、原告X2に対し、過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものであるとまではいえない。よって、この点に関する原告X2の主張は理由がない。

(4)  原告X3について

前記第三・一1及び第三・二1(三)で認定したとおり、原告X3は、妻であり、かつ**の財務会計を担当していた□□に対し、被告との取引に関する包括的代理権を与え、□□は、昭和五八年一一月から被告を通じて証券取引を開始し、以後**名義及び原告X3名義等複数の口座を開設した上で、それぞれの口座において、株式、転換社債等の証券取引を多数回にわたり行っていたこと、本件セキスイワラント買付代金は、少額とはいえないが、原告X3がそれまでに行っていた証券取引に比し著しく多額とはいえないこと、以上の諸事情を総合考慮するならば、Bがした本件セキスイワラント買付けの勧誘が、原告X3及び□□に対し、過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものとまではいえない。よって、この点に関する原告X3の主張は理由がない。

(二)  説明確認義務違反の有無

(1)  前記第三・一2で述べたワラントの商品性及び同二2に既述した証券取引に関する行政的規制等からすると、証券会社が原告らのような一般の個人投資家に対してワラント購入を勧誘するに際しては、ワラントの商品内容及び当該取引に伴う危険性等投資判断にあたって重要な要素となるべき事項について具体的に説明すべき義務があると解される。そして、投資判断にあたって重要な要素となるのは、取引に至る経緯、適合性の高低、勧誘文言等具体的な事情を総合して判断すべきことではあるが、少なくとも、①ワラントは株式とは異なるもので新株引受権を表象する権利であること、②ワラントには行使期限があり、それを経過すると無価値となるものであること、③株式と比較するとハイリスクのある商品であること、以上の三点であり、これらについては具体的に説明しなければならないとすべきである。

(2)  原告X1について

前記第三・二1(一)で認定したとおり、Cは原告X1に対し、本件三菱電機ワラント買付けの前に、ワラントは、株式との連動があり、上下が激しい商品であることを説明したこと、原告X1は、□□に代わってワラント取引に関する確認書に署名押印した上でCに差し入れたことは認められる。しかしながら、前記原告X1に関する適合性原則違反の項において述べたとおり、原告X1が本件三菱電機ワラントを買い付けたのは、被告を通じて株式取引を開始したわずか四か月後であり、また、原告X1は被告において株式取引を始めるまでは、株式取引の経験がほとんどなかったこと等から考えて原告X1及び□□のワラント取引に関する適格性は低かったと認められる。また、Cは、原告X1が被告との取引を開始した当初から取引を担当していたのであって、□□及び原告X1の投資意欲や投資態度、投資資金の性格等その属性について十分に認識し、又は、認識し得る立場にあったと認められる。そうすると、Cとしては、ワラント取引に関する適格性の低い□□ないし原告X1に対して、ワラントの買付けを勧めるにあたっても、右のような事情を考慮して、ワラントの商品性に関して図等を用いて比較的わかりやすく説明がされているワラント取引に関する説明書を交付したり、他の商品(転換社債や株式)と対比するなど独自の工夫をこらした上で、ワラントの商品内容及び当該取引に伴う危険性等投資判断にあたって重要な要素となるべき前記(1)の①ないし③に関する事項について、特に具体的に、かつ、わかりやすく説明すべきである。ところが、本件においては、Cは原告X1に対し、本件三菱電機ワラントを勧誘した際、ワラント取引に関する説明書を交付していないばかりか、前記(1)の①ないし③の事項に関して、前記の程度の説明をしたにとどまり、ワラントが新株引受権であること及び権利行使期限があり、この期限経過後は無価値となるものであることについて説明していないのである。そうすると、Cの勧誘は、□□及び原告X1に対する説明義務違反の違法があったというべきであり、Cにはこの点についての過失があったと認められるから、被告は使用者としての責任(民法七一五条)を負うことになる。

なお、被告は、平成元年一〇月以降毎年一回、すべてのワラント購入者に対し、ワラント取引に関する説明書を送付していたのであり、それにもかかわらず、原告X1からは何ら抗議がないことからすると、原告X1はワラントに関して十分理解していた旨主張する。しかしながら、Cが説明した内容は前記のとおりであって、それ自体十分なものではないこと、原告X1は、本件三菱電機ワラント以外にワラント取引を行っていないこと、Cが□□ないし原告X1に対して、本件三菱電機ワラント取引以後改めてワラントの商品性等に関して説明を行っていないことからすると、本件三菱電機ワラント購入後に被告が原告X1に対してワラント取引に関する説明書を送付した後も□□ないし原告X1から被告への抗議がされなかったからといって、この事実から原告X1がワラントの商品性等に関して十分に理解していたと推認することはできない。よって、この点に関する被告の主張は理由がない。

(3)  原告X2について

前記第三・二1(二)で認定したとおり、Dは原告X2に対し、転換社債と比較して、ワラントとは転換社債の社債部分を抜いた部分、値動きのある部分であって、それの売り買いによく似ていること、リスクは限定されており、取引妙味があること、ワラントの価格は株価に比べて上下動が激しい旨の説明をしており、原告X2としても、ワラントと株式が違うものであることは認識していた。しかしながら、Dは、ワラントには権利行使期限があり、これを経過すると無価値になる商品であること及びワラントが新株引受権を表象する権利であることについては明確な説明をしていないのであり、Dによる説明は、それまでワラントに関する知識を全く有していなかった原告X2に対し、本件長谷工ワラントの買付け当日に、電話で、わずか約一〇分間(この時間は、買い付ける銘柄の選定及び買付け数量の話をも含んだものである。)でなされたものにすぎず、その際の説明の内容は、転換社債と比較するなどD独自の工夫がされてはいるが、それ自体ワラントの商品性を正確に説明したものとは言い難く、ワラントの商品性に関する重要な要素である前記(1)の①ないし③の事項について十分な説明がされていない。さらに、Dは原告X2に対し、本件長谷工ワラント買付け前後の時点を含めても、右に述べた以外にワラントの商品性等に関する説明をしておらず、また、顧客の理解が十分でない場合にそれを補う趣旨の下に証券会社が作成したワラント取引に関する説明書も交付していないことを併せ考えると、Dは、原告X2に本件長谷工ワラントの購入を勧誘するにつき、信義則上、法的義務として要求される説明確認義務を尽くしていないものというべきである。Dにはこの点についての過失があったと認められるから、被告は使用者としての責任(民法七一五条)を負うと解するのが相当である。

(4)  原告X3について

前記第三・二1(三)で認定したとおり、平成元年五月ころ、Bは□□に対し、ワラントの購入を勧めるとともに、株式が一割上がればワラントは三割上がるが、逆に株式が一割下がればワラントは三割下がるというようにハイリスク・ハイリターンの商品であることは明確に説明しているが、ワラントには権利行使期限があり、それを経過すると無価値になる商品であることについては曖昧な表現でしか触れておらず、ワラントが新株引受権であることは全く説明していない。そして、本件セキスイワラントを購入した際における□□のワラントの商品性に関する理解は、転換社債に類似するハイリスク・ハイリターン商品であるという程度にすぎなかったのであるから、Bの□□に対する口頭での説明内容はワラントを勧誘する際に要求される説明確認義務に反するものであるというべきである。ところで、被告は、□□が本件セキスイワラントを購入する約半年前である平成元年五月ころ、被告作成のワラントの説明書を送付しており、右説明書にはワラントの商品性に関する必要な解説がされている。しかし、右説明書は、例えば、権利行使期限に関する説明は、「リスクの限定」との標題のもとに「転売もしくは権利行使せずに行使期間が終了すると無価値になります。従って、最大の投資リスクは投資元本です。」と記載されているように、商品の客観的説明というよりも商品勧誘のための解説という意味あいの強いものであって、担当者の解説なくしてはその意味するところを正確に把握することは困難な文書である。そして、Bは□□に対し、右説明書に基づいてワラントの説明をすることはしていない。また、□□は昭和五八年以来証券取引を行っているとはいっても、昭和六一年ごろまでは国債を組み込んだ投資信託の購入が多く、平成元年からは株式の売買がやや増加したが、対象株式は比較的値動きの少ない株式であったのであり、証券取引の知識が豊富であるということはできない。したがって、ワラントの説明書が送付されているからといって、Bが口頭では行わなかった説明がされているということはできない。よって、Bは、□□に本件セキスイワラント購入を勧誘するにつき説明確認義務を尽くしていないものというべきであり、Bにはこの点について過失があったと認められるから、被告は使用者としての責任(民法七一五条)を負うことになる。

4 賠償すべき損害の額について

(一)  原告らが本件各ワラント購入代金相当額の損害を被ったことは先に(第三・一4)認定したとおりである。

(二)  過失相殺

(1)  原告X1について

原告X1にワラント取引の適合性が乏しかったことは先に認定したとおりであるところ(第三・二3(一)(2))、Cは、このような原告X1が、その商品性が分からないとの理由で購入を渋っているにもかかわらず何度も購入を勧め、かつ、ワラントが新株引受権であること及びワラントには権利行使期限がありそれを経過すると無価値となる商品であることを説明していないのであるから、その義務違反の程度は大きいものといわなければならない。他方、前記認定したとおり、原告X1の投資態度、投資意欲は必ずしも消極的なものではなかったこと、原告X1は、ワラントの商品性につきほとんど理解しないままワラントを購入し、また、本件三菱電機ワラント購入にあたって、□□を代理してワラント取引に関する確認書に署名押印していることからすると、本件三菱電機ワラントの取引による損害発生について全く落ち度がなかったとはいえない。そこで、本件勧誘行為の違法性の程度その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告X1の本件三菱電機ワラント取引による損害額の一割を減ずるのが相当である。

(2)  原告X2について

前示したとおり、本件長谷工ワラント勧誘にあたって、Dが原告X2に対してした説明は十分なものとはいえないが、ワラントの特質について概括的な説明はされており、現に原告X2自身、Dの説明により、ワラントが株式とは異なっており、ワラントは株式よりも値上がり値下がりがある商品であることについてはある程度認識することができた。原告X2は、被告を通じて継続的に株式等の証券取引を行っていたのであって、ワラントが株式とは異なる商品であり、かつ、株式よりも価格の上下動が激しい商品であることまで認識しながら、権利行使期限等ワラントの商品内容に関して自ら調査研究したり、Dに説明を求めたりすることもなく、勧誘されるまま、本件長谷工ワラントの購入に応じた。以上のような諸事情からすれば、本件損害発生について原告X2にも少なからず落ち度があるというべきである。そこで、本件における勧誘行為の違法性の程度その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告X2の本件長谷工ワラント取引による損害額の五割を減ずるのが相当である。

(3)  原告X3について

□□は、取引の中心が投資信託の購入であったとはいえ、昭和五八年から証券取引を継続していたものであり、Bからワラントが新株引受権であるとの説明は受けていないけれども、権利行使期限を経過すると無価値となる商品であることは曖昧な表現ながらも説明を受けていたし、ワラントがハイリスク・ハイリターン商品であるとの説明も受けていた。また、本件セキスイワラント取引の前には被告作成のワラントの説明書の送付を受けているのであるから、□□には本件セキスイワラント取引による損害を回避する機会があり、かつ、それが可能であったというべきである。したがって、原告X3は本件セキスイワラント取引によって被った損害のうち一部を自ら負担すべきである。そして、本件における勧誘行為の違法性の程度その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告X3の本件セキスイワラント取引による損害額の六割五分を減ずるのが相当である。

(三)  以上のとおりであり、原告らに関する前記各損害のうち、被告が損害賠償をなすべき金額としては、原告X1に対して三一二万四〇〇八円、原告X2に対して一〇〇万一二二七円、原告X3に対して七七万二〇六九円となる。また、同原告らが本件訴訟の提起遂行を原告ら訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、本訴の提起、遂行には法律専門家の援助が必要であったと認められ、本件事案の内容、請求認容額等諸般の事情を総合して考慮すると、原告X1については三〇万円、原告X2については一〇万円、原告X3については一〇万円の弁護士費用が被告の本件不法行為と相当因果関係のある損害として、これを被告に負担させるのが相当である。

第四結論

以上よりすれば、原告らの各請求は、主文一ないし三項に記載した限りで理由があるからこれを認容し、その余については理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤誠 裁判官 黒野功久 裁判官 内藤裕之)

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